大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)1112号 判決

上告人

古賀文太

代理人

森竹彦

被上告人

甘木中央青果株式会社

代理人

吉田勇三郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森竹彦の上告理由について。

形成の訴は法律の規定する要件を充たすかぎり、訴の利益の存するのが通常であるけれども、その後の事情の変化により、その利益を欠くに至る場合がある(当裁判所昭和三三年(オ)第一〇九七号同三七年一月一九日第二小法廷判決、民集一六巻一号七六頁参照)。しかして、株主総会決議取消の訴は形成の訴であるが、役員選任の総会決議取消の訴が係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によつて取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消を求める選任決議に基づく取締役ら役員が現存しなくなつたときは、右の場合に該当するものとして、特別の事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至るものと解するを相当とする。

叙上の見地に立つて、本件につきかかる特別事情が存するか否かを見るに、原審の認定したところによれば、上告人らの取消を求める株主総会の決議によつて選任された取締役らは、いずれもすべて任期満了して退任しているというのであるところ、所論は、取消し得べき決議に基づいて選任された取締役の在任中の行為について会社の受けた損害を回復するためには、今なお当該決議取消の利益があるものと主張し、そのいうところは、本件取消の訴は、会社の利益のためにすると主張するものと解されるところがある。しかして、株主総会決議取消の訴は、単にその訴を提起した者の個人的利益のためのみのものでなく、会社企業自体の利益のためにするものであるが、上告人は、右のごとき主張をするにかかわらず本件取消の訴が会社のためにすることについて何等の立証をしない以上、本件について特別事情を認めるに由なく、結局本件の訴は、訴の利益を欠くに至つたものと認める外はない。原判決には何等所論の違法はなく、論旨は採用し得ない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隈健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例